アルパイン ブランドストーリーアルパイン ブランドストーリー
BRAND STORY
思想
軌跡
革新
01

弾痕は、やがて教えになった。

カーオーディオを貫いた銃弾

2023.01.20

その事件は、海の向こうで起こった。

ある日、差出人不明の小包がひとつ届いた。それほど大きくはないが、手にしてみると、ずっしりと重さがある。その重さの感覚は、どこかで覚えがあるような気がした。

 

アルパインのアメリカ法人のスタッフは、差出人不明という状況に不安を感じながらも、おそるおそる小包を開けてみた。中に入っていたのは、当時アルパインが販売していたカーオーディオだった。しかし見慣れていた自分たちの製品とは、大きな違いがあった。そのカーオーディオは、なんと、弾丸で撃ち抜かれていたのだ。

 

…これは、もう40年も前の話だが、後にアルパインに大きな影響を与えることになる実話である。

 

なぜアメリカでこのようなことが起こったのか。アルパインに与えた影響とはどんなことか。このストーリーの起源は、アルパイン創業まで遡る。

 

アルパインは、1967年にアルプス電気とアメリカ・モトローラとの合弁会社「アルプス・モートローラ株式会社」から始まった。当初からカーオーディオを製造していて高い評価を得ていたが、まだ自社ブランドで発売していた訳ではなかった。それが1978年、アルプス電気が株式をすべて買い取ることになり、同時に社名を「アルパイン株式会社」に変更した。これがアルパインの事実上の創業である。

 

自社ブランドの製品を開発・製造し、市場に売り出す。これはモノづくりに情熱をかけてきたアルパインの社員たちの念願でもあった。社員のモチベーションは上がり、新会社の成功を夢見ていた。ところが当時の日本の自動車産業は活況で、カーエレクトロニクスの市場においても各ブランドが自分たちのシェアを獲得するために鎬を削っていた。そんな状況の中、後発ブランドのアルパインが日本のカーエレクトロニクス市場に割って入ることは、そう簡単にはできなかった。

 

そこでアルパインは、海外に活路を見出すことにした。製品には自信があった。そのひとつが、アメリカだ。当時、アメリカで販売されていたカーオーディオの価格は50〜100ドル程度だったが、アルパインは450〜500ドルという高価格帯で勝負に出た。徹底的に音にこだわり、段違いの性能を誇るカーオーディオとして売り出した。アルパインはカーオーディオの高級ブランドとして地位を築く戦略を取ったのだ。

 

現地には、日本からスタッフが駐在し、広大な国でのビジネスに戸惑いながらも奮闘を重ねていた。そんなある日、冒頭で紹介した事件が起こった、という訳だ。

 

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ひとつの製品が、アルパインを変えた。

40年前の話を続けよう。小包を開けると、弾丸で撃ち抜かれたアルパイン製のカーオーディオが出てきた。穴は大きく、どうやらマグナム弾のようだった。なぜお客さまは、我々の製品を弾丸で打ち抜いたのか? なぜそれを送ってきたのか? 製品を手にしてよく見ると、理由が分かった。このカーオーディオはカセットテープを再生できる製品だったが、中でテープがぐちゃぐちゃに絡まっていたのだ。想像するにこの製品を購入したお客さまが、自分の愛車に装着して音楽を楽しんでいたところ、突然テープが絡んでしまい、取り出せなくなってしまったのであろう。カセットテープ再生時のトラブル…といってしまえばそれまでだが、お客さまにとっては500ドル近くも支払って手に入れた高級カーオーディオ。それだけに期待を寄せていたに違いない。なのに、そんなトラブルが降りかかっては、怒り出すのも無理はない。アルパインにとっては何千個の製品の内の、たった一個の不具合かもしれないが、お客さまにとっては自分の特別な一個に発生した大問題だ。だから怒りのあまり、マグナム弾を撃ち込んで送りつけたのだ。

 

アメリカ法人の支配人は、この出来事を重く受け止めた。品質には自信を持っていた自社製品。ところがこんな出来事が起こり、それが奢りであったと身を持って知った。二度とこんなことが起こらないようにするには、どうしたらいいのか…。自分ひとりでは解決できないことは、すぐに悟った。支配人は、弾丸で撃ち抜かれたこの製品を日本に持ち帰った。そして日本で働く社員たちにこの製品を見せて、「たった一台でも品質が悪いと、こんなことになってしまう」ということを、説いて回った。見せられた社員は、これまで覚えのないような衝撃を受けたという。手紙もメモもない。お客さまからの言葉は何もない。しかし大きな弾痕が、すべてを語っていた。そしてアメリカのお客さまの強い怒りは、国境を越えて、アルパインの社員たちに生々しく伝わった。

 

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品質こそ、モノづくりの基本。

この弾痕には、社員たちに「モノづくりの基本は品質」ということを気づかせてくれる力があった。そしてこの出来事から、アルパインの各部署は製品の品質について、一層厳しく取り組むようになった。ほどなく品質に対する意識が社内全体で変わり、製品に反映され、やがてアルパインは日本発のグローバルブランドとしてカーエレクトロニクス業界で確固たる地位を築いたのである。

 

弾痕のカーオーディオは、いま福島県いわき市の本社のミュージアムにある。いつまでも品質がモノづくりの原点であることを忘れないように、社員の世代が変わってもその想いが伝わり続けるように、さまざまな製品に囲まれながらひときわ目立つ場所に展示されている。アルパインは、弾痕の一件を単なるクレームで終わらせずに、大切なことを気づかせてくれる「教え」として残す選択をしたのだ。

 

今日もガラスケースの中で、弾痕のカーオーディオが、モノづくりの原点を教えてくれている。

 

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