アルパイン ブランドストーリーアルパイン ブランドストーリー
BRAND STORY
思想
軌跡
革新
06

ブランドを
象徴する音を。

独創のカーオーディオJuba

2023.03.31

アルパインのフラッグシップシリーズを、創る。

時代は1980年代後半。この頃アルパインは、名機と呼ばれるカーオーディオ製品をいくつも世に送り出したブランドとして、国内外から高い評価を受ける存在になっていた。アルパインは、この評価の高まりをブランド価値のさらなる向上の機会と捉え、新たに「ソニックエクセレンス」をスローガンとして掲げた。ソニックエクセレンス、すなわちアルパインとは卓越した音を提供するブランドであると、強い意志を持って宣言したのだ。このブランド活動を行っていく中で、さっそく取り組むべき大きな課題があった。それはアルパインブランドの象徴となるような「シリーズ」の実現である。

 

確かにアルパインの製品は、カセットデッキやスピーカーなど、ひとつひとつの製品単位で高い評価を得ていた。しかし、フラッグシップのシリーズとして、トータルで高音質を認められた製品群は、まだ揃っていなかったのだ。そのことにはアルパインの開発陣も技術者もセールスマンも、どこか歯がゆい思いがあった。当時、商品企画に携わっていた奥田も、そのひとりであった。

 

そのような状況の中で、ある製品導入の話が持ち上がった。海外で発売され高い評価を得ていたCDチューナーのフラッグシップモデル「7909」を、日本国内で販売するというのだ。海外で好評の製品を、日本市場向けに仕様変更して送り出す。実はアルパインにとってこの導入方法は、数々の成功例がある盤石のアプローチだ。奥田も、「7909」の国内導入はこれまで通りの流れになることを想像していた。

 

しかしストーリーは一変し、ドラマになった。「やはり、システムで導入しよう」。奥田の上司である古瀬が、会議で声を上げた。CDチューナー「7909」を単独の製品として国内導入するのではなく、スピーカーも、アンプも、最高のものを揃えて、音楽を愛している日本の人たちに届けようと提案した。つまり、フラッグシップシリーズを開発しようというのだ。もちろんそうなれば開発の最前線で指揮を執ることになるのは、奥田だ。「奥田君、頼んだよ」。古瀬からかけられた言葉に、奥田は大きな責任を感じていた。しかし一方で、何とも言えない喜びを抱いている自分がいることに気づいた。なぜなら奥田もまた、若かりし頃からオーディオをこよなく愛するひとりだったからだ。最高のカーオーディオを送り出す機会が、ついに自分にやってきたのだ。

 

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スピーカーもアンプも、まだ、どこにもない製品を。

CDプレイヤーは「7909」、これは決まっている。「7909」を国内向けの仕様にするのは、さして難しいことではない。問題はスピーカーとアンプだ。実は奥田には、ひとつ斬新なアイデアがあった。カーオーディオとしてはこれまでにない、ホーンスピーカーの採用だ。カーオーディオで通常使われているのはコーン型のスピーカーだが、その前例を打ち破り、長らくオーディオファンから支持され続けているホーン型スピーカーを採用しようという試みである。

 

それまでホーン型スピーカーは指向性が強すぎて、クルマの中に搭載するなんて無理だと思われていた。しかし今回のシリーズは「ホームオーディオ並みの音を、カーオーディオで実現する」という想いが開発陣にあった。アルパインのエンジニアの田辺も、この想いを実現するためにはホーン型スピーカーが欠かせないと考え、さまざまなサプライヤーと企業の垣根を越えて開発にあたった。幾度も試作を繰り返し、そしてついに生まれたのが、市販世界初となるホーンツィーター搭載デュアルコンセントリック2ウェイスピーカー「6299」だ。この「6299」は理想の音を奏でるために、装着には車種や内装に応じた細やかな技術が必要となった。アルパインはそうした装着のフォロー体制も整えることによって、全国のカーオーディオ専門店での販売を可能にしたのである。

 

もうひとつのシリーズの柱、パワーアンプ「3546」の開発にも果敢なチャレンジが行われた。数々の制約を覚悟し、それを乗り超えることで、スイッチング歪のないA級動作方式を市販カーオーディオとして世界初採用。緩急自在に揺れ動く音楽を、ありのままに増幅する。高出力と質の両立という、パワーアンプにつきまとう二律背反のテーマに対し、アルパインにしかできない答えを出したのである。

 

こうしてシリーズとして整った製品群は、アルパイン・プレステージ・カーオーディオ・シリーズJuba(=ジュバ)と名付けられ、1990年に発売することになった。そしてアルパイン渾身のフラッグシップモデルとして、まず試聴会を行うことになった。

 

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皆が待ち望んでいた、アルパインの最上の音。

試聴会は、アルパインのお膝元となる福島県にあるホテルの会場で行われた。カーオーディオのプロである専門店の方々、著名なオーディオ評論家の方々を招待し、Jubaのサウンドを存分に聴いていただいた。奥田や田辺をはじめとするアルパインの企画/開発陣は、その様子を固唾を飲んで見守っていた。会場でのセッティングに手間取り、時間ギリギリまでかかった準備。果たして不備はなかったか。自分たちが目指していた音は、Jubaの音は、お客様の心に響いてくれるのか…。

 

「これはいいね。いい音だ」。試聴したオーディオ評論家の方の感想が、奥田の耳に入ってきた。奥田は安堵した。さらに有名なカーオーディオ専門店の店長が、奥田の前にやってきて、肩をたたきながら言葉をかけてくれた。「よくやってくれた!よくやってくれたよ!」と。その時、奥田は実感した。「そうか、我々ならやってくれると信じて…、ずっと待っていてくれたんだ…」。アルパインのフラッグシップとなるシリーズ。それは「ソニックエクセレンス」を宣言したアルパインにとってプライドをかけた製品であるとともに、アルパインを認めてくれていた人たちにとっても待望の製品であったことを、肌身で感じたのである。

 

その後、カーオーディオ全盛からカーナビの時代へ、20世紀から21世紀へと、時代が変わっていくことになるが、Jubaを発売するまでに培った技術やノウハウ、そしてその経緯で育まれたチャレンジスピリット、独創性を大切にする精神は、その後もアルパインの中で大切に受け継がれていくことになる。AlpineF#1Status、リアビジョン、そしてビッグXシリーズ…といった独自性の高い製品をアルパインが生み出し続けてきたことは、その証明になっているのかもしれない。

 

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