時代の変化を、
さらに変えていく。
アルパインCDチェンジャーの進化
オーディオ変革期に、挑む。
1980年代初頭、オーディオ業界はかつてない変革期を迎えていた。CD(コンパクトディスク)の登場である。それは、ただ音楽メディアがカセットテープやレコードからCDに変わったというだけでなく、「アナログからデジタルへの変換」という音そのものの抜本的な変革でもあった。すでにカーオーディオのグローバルブランドとして地位を確立していたアルパインもまた、この未踏の荒野に向けて歩みを進めることとなった。
1985年、まずアルパインブランド初のカーオーディオ用CDプレーヤーとして5900を発売。これはインパネに装着できる1DINサイズで、お気に入りのCDを1枚ずつ再生することができた。ユーザーは、コクピットで薄いディスクを手に取り、CDという新メディアがついに車室内にやってきたことを実感した。さらに翌86年には12枚のCDが収納できるCDリモートチェンジャー5950を発売。トランクルームに設置して複数枚のCDを連続再生できるCDチェンジャーというカテゴリーにもアルパインはいち早く対応し、CDカーオーディオのトップランナーとして歩み始めた。だがそれはこのストーリーのほんの序章にしか過ぎなかった。アルパインはCDの領域においても、すでにその先を見据えた開発を始めていたのである。そこには自らが時代を変えていくというアルパインの意思があった。
目的地は、運転席にあり。
CDカーオーディオの開発を進めていくにあたって、まず求められたのは小型化だ。ホームオーディオとは異なり、クルマという限られた空間の中に設置するカーオーディオにとって小型化はある種の宿命でもあった。とりわけ、運転席から遠く離れたトランクルームに陣取る大きなCDチェンジャーの存在は、真っ先に小型化の対象となった。
その頃、アルバインの開発陣にとって小型化はCDカーオーディオの基本的な開発前提となっていた。若手からベテラン、携わる総ての技術者たちがこぞって新しい技術や新しい部品を積極的に取り入れ、アルパイン製品の小型化が進んでいった。
だが、意気込むアルパインエンジニアの前に、従来のアナログオーディオで培った知見を超えた、デジタルの洗礼が立ちはだかった。例えば「音飛び」。CD再生中にクルマがギャップや段差で強い振動を受けると音飛びすることがあり、これはユーザーにとっても開発メーカーにとっても悩みのタネであった。現在なら先読みしたデータをメモリに溜めて防ぐという技術もあるが、それもまだ確立しておらず、音飛び防止策には何よりも耐震性能の向上が求められた。
エンジニアたちは音飛び対策のために、さまざまな技術やアイデアを取り入れた。そして来る日も来る日も試験機をクルマに持ち込み、裏山の悪路を走り続け、実証を繰り返した。製品の小型化との両立も課題であった。部品が小さくなれば、耐震や耐候に対する許容量も減るからだ。まだ品質にばらつきのあったCDを何枚も取り替え、道、天候、気温等々、条件を変えて走り続けた。
1989年、途方もない時間を費やしたカットアンドトライを経てようやく発売に辿り着いた6枚CDチェンジャーが、CDシャトル5952だ。それは驚きを持って世の中に迎えられ、世界最小CDチェンジャーとして市場での地位を確立する。
だがその時、ユーザーとって最も大きな喜びは世界最小サイズの実現とともに、CDチェンジャーが車室内に持ち込めることだったのかもしれない。CDシャトル5952は、その小ささ故にグローブボックスやサイドボックスへの設置が可能になり、シートに座ったままCDを差し替えることができるようになったのだ。
“無理”は、“できない”ではない。
「1DINのインダッシュCDオートチェンジャーを実現したい」。
新しい製品コンセプトが提示された。CDシャトル5952の成功でひとつの頂を越えたつもりになっていた開発陣は、冷や水をかけられた気分になった。3枚でいいと言われたが、枚数の問題ではなかった。そもそも1DINサイズではCDを入れ替えるスペースがないのだから。
一瞬、「無理だ」という思いが頭を過る。だが次の瞬間には、「だからこそやってみよう」という気持ちになる。アルパインで設計者人生を送るエンジニアたちは、いつの間にか何事に対しても挑戦する意識を身につけていた。無理だからと言って、できないわけではない。最後は挑戦がカタチになる。経験に基づいた小さくも確かな自信が彼らに沸いてきていた。
「外に出してみたらどうだろう」。
繰り返す会議の中で誰かがポツリと言った。入れ替えるCDを一度外に出す。なるほど、すべてを内部で行う必要はない。外側には十分すぎるほどのスペースがある。それに基本的な考え方は従来のCDチェンジャーを踏襲することもできる。動きを簡単な図にしてみると、それはアルファベットの「Z」の文字に似ていた。後に「Zアクション」と名付けられる革新的な機構の誕生であった。
だが理論通りに進まないのは開発の常である。振動、気温、天候に加えて、今までにはない動きをするメカニズム。ひとつひとつをクリアしていかなければ製品として送り出すことはできない。従来のCDチェンジャーを踏襲したと言ったが、実際の動きはほぼ新開発である。小さな部品をさらに小さくし、その動きを厳密に管理し、それでも噛み合わない瞬間が現れる。その瞬間、中で何が起こっているのか。技術者たちは、その解明に文字通り血眼になった。スロットルや換気スリットなどわずかな隙間にカメラを何台も設置して内部の様子を確認しようとした。透明なマガジンを作って動きをダイレクトに確認しようとした。部品の大きさ、部品の角度、動きのスピード、どれかひとつでも不具合があれば止まる。ここでもカットアンドトライは果てしなく続いた。
時代を変え続けていく意思。
1991年、世界初の1DINインダッシュタイプ3枚CDオートチェンジャー、3Dシャトル5980発売。エンジニアの発想と努力が時代を変えた瞬間だった。
カーオーディオの主役の座が大きくCDに変化していく中で登場した3Dシャトル5980は喝采を受けつつ世の中に迎えられた。人々は手元で手軽にCDマガジンを入れ替えてさまざまな音楽を楽しんだ。片手で軽く持てる3枚マガジンは、むしろ扱いやすいと好評だった。ジャンルやアーティストごとにCDをセットした予備マガジンをコンソールボックスに入れてドライブする若者もいた。
あれから30年以上を経て、CDはストリーミング再生にその座を譲ろうとしている。あれほど感動を与えてくれたCDサウンドもハイレゾサウンドによって凌駕されようとしている。時代は常に変わっていく。だが、ただ変わるのを待つのではなく、自ら変えていく。その意志がある限り、これからもアルパインからエポックメイキングとなる製品が生み出されていくだろう。